なりたい仕事のことを知る ナリカタ

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歯科医院のチェアサイドで仕事をする歯科技工士の新しい仕事スタイルを広めていきたい

中村 欣央さん歯科技工士(AQUAデンタルラボ 代表)

  • インタビュー内容・勤務先等は取材当時の情報となります

歯科医院で患者さんと接する歯科技工士の新しい働き方

いま、ほとんどは歯科医院で患者さんと接する仕事をしています。歯科医師の指示の下に患者さんの入れ歯の使い心地を聞いて調整したり、患者さんが今何に悩まれているか話を聞いたり、どうしてほしいのか、どうなりたいのかを聞いて形にして行く仕事です。歯科技工士自体がそれほどメジャーな仕事ではないですし、ほとんどの歯科技工士は表に出てこないので、新鮮な仕事のスタイルだと思いますね。僕はこの仕事のスタイルを確立していきたいと思っているんです。机の上でだけで作っていても、見えにくいじゃないですか、患者さんの笑顔や痛いんだよと困った顔は。患者さんと接することが自分の仕事に対するモチベーションになっていると思っています。今は楽しく仕事をしていますが、技工士学校時代には目標を見失って落ちこぼれ、仕事に就いてからも自信を失って一度は仕事を辞めようと決意したんです。それが27歳のとき。すでに結婚して子供もいたので、求人広告で一番給料の高い葬儀屋の面接に行き、採用も決まっていました。そのとき、独立開業した歯科技工士が集まり、業界の活性化を推進しているグループをまとめている方と出会ったんです。「辞める気持ちがあるんだったら、もう1回やってみないか?」と。その一言で、葬儀屋の就職をキャンセルして、歯科技工士の仕事にもう1回懸けてみました。

患者さんと触れ合う、本当の意味での技工士人生の始まり

このグループは独立開業した歯科技工士が集まり、みんながよいところを持ち寄っています。人を育ててくれるグループなんです。でも、環境が変わってもなかなか自分自身は変わらないもので、最初はいろいろな葛藤はありました。でも、ここでの仕事がすごく新鮮だったんです。最初に僕がグループをとりまとめている方と会ったとき、やりたいとことと苦手なことを聞かれました。「今までが入れ歯専門のラボだったので入れ歯がやりたい。苦手なのは人と話すことです」と言ったら、「そうか。じゃあ、明日から営業に行け」と。人と話せないし、ましてや歯科医院の先生と対等になんか話せない。ところが、営業をやっていくうちに、だんだん楽しくなってきたんです。もしかしたら、嫌いだと思っていたことが、実は好きだったのかもしれない、本当の自分はそこにあこがれていたのに、それを「嫌い」っていう言葉で隠してたんじゃないかと思い始めました。そのときに内田先生(現在仕事をしている歯科医院の歯っぴぃデンタル)にも直接患者さんと触れ合う、歯科技工士としての自分が出せる場を作っていただいたんです。人と話すことがすごく苦手だったのに、患者さんと話すきっかけまでいただいてしまった。そこから、僕の本当の意味での技工士人生が始まりました。

歯科技工士は患者さんを笑顔にできる仕事

自分を変えるきっかけをみんながくれて、それに対して自分が楽しいなと思い始めてから、応援してくれる人たちに少しずつ応えられるようになってきたと思うし、もっと知りたい、もっと勉強したい、もっと上へ行きたい、もっとやってみたいなという気持ちが、やっと出てきたんですよね。学生のころには全くなかったものが。それからはほんとに、いろいろな経験をさせてもらっています。ラボでの仕事よりも歯科医院での仕事の方が楽しいというか、自分自身がやりたいことで、楽しみながら仕事ができていると感じます。一番嫌いだった仕事が、一番好きな仕事になりましたね。グループの春日部と吉川のラボ(歯科技工所)は入れ歯製作の専門で、越谷の方は差し歯の製作専門なんです。僕が患者さんから相談を受けて、例えば歯を作ることとなったら、それぞれ専門の歯科技工士に頼んでいます。患者さんと直接話をしているから、「今、この患者さん入れ歯がなくなっちゃって物が食べられないんだ。だから、急いで作ってくれ」とか、「顎の動きはこうだから、こうしてほしい」とか、そういう細かな情報を共有できます。ちょうど歯科医院と歯科技工所の間に入っている感じですね。歯科技工所の方から見た患者さん、歯科医院の方から見た技工物、そのが両方が見られるようになりました。 仕事では、「ありがとう」言われたら最高です。患者さんから涙を流して「ありがとう」とか言われると、「ああ、ほんとにこの仕事をやってて良かった」と思います。口の中が全部虫歯だとか、歯が抜けちゃって食べられないからどうにかしてくださいという患者さんが来たとき、歯科医療チームの一員として治療に関わったあと、患者さんが喜んで泣いて帰られたりとか、引きこもりだったおばあちゃんが治療後に「孫と一緒に旅行に行った」と、おみやげを持ってきてくれたり 。そういう患者さんに笑顔になってもらいたい。歯科技工士は、患者さんを笑顔にできる職業だと思っています。

本当の技工は先生と患者さんから教わる。その機会を増やしたい

今、出身校の新東京歯科技工士学校で授業をやらせてもらっています。僕が学生だったころは全然気づかなかったんですが、学生たちはすごくきれいな目をしている、すごいなあって思うんですね。だからこそ、現場に出たときにそれをつぶさないようにしたいなと思うんです。だから、歯科技工業界をもっと明るく活性化をしていきたいと思います。そのためにもより多くの歯科技工士さんに、チェアサイド(診療所での仕事)を経験してもらえるように、協力してくれる歯科医師の先生を増やしていきたいと思います。技工は机の上で一生懸命考えていてもできない。歯科技工士は歯科医師の先生から、そして患者さんから本当の技工というのを教わると思うんです。だから、そうやって先生や患者さんから教わる機会のある、技工のスタイルをつくりたいと思います。
また、もう一つの目標があります。これから高齢化社会ですが、歯が悪くて食べられなくて、点滴を入れて寝たきりというのは、すごくもったいない。だから、入れ歯でもきちんと噛め、食べものを口から胃の中に入れていくことでお年寄りに元気になってもらう。元気になって地域のコミュニティに参加してもらうことによって、また世の中が活性化していくんじゃないかと。だから、元気なお年寄りをつくるのが僕のもう一つの目標。それを歯科技工を通じてやっていきたい。厚生労働省が80歳で20本歯を残そうという8020運動をやっているんですけど、「80歳でも20歳の若い人たち同じ食卓を囲める」というのが、「僕の8020運動」です。

中村さんの仕事場

中村さんは、独立開業した歯科技工士だけで構成される「カメルヤ(cameruya)グループ」に所属。グループでは、歯科医院のチェアサイドで働く新たな歯科技工士のスタイルの推進にも力を入れ、歯科技工業界の活性化をはかっている。
中村さんが主に仕事をしている「歯っぴぃデンタル」の内田院長(中央)と、活性化に協力されている有限会社歯っぴいの内田社長(右)。

「歯っぴいデンタル」 http://uchida-shika.com/