岡部 和幸さんデジタルラボア シュルッセル代表
出身校新東京歯科技工士学校
卒業後、20代はドイツやイタリアでの学びの時間でした。帰国後に、今のラボを独立という形で開業しました。ラボは4階にあり、その下が歯科クリニックになっています。患者さまとはいつでも会いに行ける距離ですが、ラボ自体はとても静か。まるで秘密基地のようなおもむきで、じっくりと患者さまのケースに向き合って作業することができます。私はどうやら職人気質のようで、休みの日も考えるのは歯のことばかり。そんな性格にはぴったりの環境ですね。
新東京在学中は、20から30ものラボを見学させてもらいました。その中で海外の技工を学んでみたい、という想いが芽生え、航空券だけを握りしめて渡独。働かせてもらったのは世界的に名声のある歯科技工所でした。そこには他国からジェット機でラボに来られる患者さんも多く、併設されているゲストルームは超一流ホテルのようでした。そんな日本のラボとはスケールの大きさが違う環境に驚き、ドイツが歯科医療先進国であることを痛感。さらにドイツの技工士さんは、オン・オフの切り替えがしっかりしている。まさにカルチャーショックでした。
私が大事にしていることは、「患者さまと直接顔をあわせること」です。今は野菜の生産者でさえ顔がわかる時代。臓器のひとつである歯を誰が作っているのか、患者さまを安心させるのも技工士の仕事のひとつ。自分で足を運び、患者さまや医師とコミュニケーションを取ったものだからこそ安心して使っていただけるのだと思います。ラボの下のクリニックだけではなく、ほかのクリニックにも出向くようにしています。そういった点でも、この表参道という立地はとても便利ですね。いろいろな場所にいらっしゃる患者さまのもとへすぐに向かうことができます。
歯科技工士がつくり出した人工臓器は、患者さまと一生をともに過ごすもの。だからこそ患者さまとじっくり向き合いたいという想いで、日々臨床に取り組んでいます。しかし現在の業界では、マイクロ思考の視点のみの作業に追われ、ただただ物をつくるような技工士も多いです。ドクターや歯科衛生士と相談し、全体のバランスを考えた上でより良い1本の歯をつくることが技工士の価値を上げることだと私は考えており、患者さまと顔を合わせて要望を聞くのも、そのひとつ。そこにさらに歯科技工の環境を整え、人材も増やしていくことが、これからの課題であり、自分自身の目標でもありますね。